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信頼性の基盤〜暗号技術〜暗号技術は,コンピュータ通信の情報の機密性を高めるのに欠かせない技術であり,電子マネーなどのシステムを実際に運用していくためには,高い精度を持ったものが必要とされる。この暗号技術の先進国は,言うまでもなくコンピュータ先進国であるアメリカである。しかし,そのアメリカは40-bit以上の暗号技術の輸出を国防上の理由から規制をしてきた。高度な暗号技術は,国防総省の情報収集機関である国家安全保障局(National Security Agency)のような組織が行なっている盗聴その他の諜報活動の妨げになる軍需品(Munition)だからだ。 実際,過去にアメリカ連邦政府は,Pretty Good Privacy(PGP)という電子メール暗号用ソフトをインターネット上に無料公開したPhil Zimmermann氏を,暗号技術を国外に流出したかどで起訴している。口述,視覚的な方法を含め,(暗号の)技術データを外国人(アメリカ在住の外国人も含む)に公開することは,International Traffic in Arms Regulations(ITAR/武器・薬物に関する規定)によって禁止されており,インターネット上でのPGPの公開はその規定に触れるとされたのだ。 こうした輸出規制は,アメリカのソフトウェア産業の足かせともなっている。1995年9月,輸出できるレベルの暗号を採用したWWWブラウザ・Netscape Navigator(Ver.1.1〜1.2)に搭載されたセキュリティモードが,米国の学生2人にわずか25秒で解読されてしまった事件などは,まさにこの規制の問題を示したものだろう。 輸出規制の緩和を求める国内業界の声に対し,アメリカ政府は,当初,「政府が必要と認めた場合には内容を見られるようにする」,という条件で輸出規制の緩和を持ち掛けた。だが,検閲権の維持を図るこの対応にコンピュータ業界が反発し,規制緩和は暗礁に乗り上げていた。 こうした中,1996年10月1日(火),暗号解読のためのソフトウェア技術の輸出規制を2年間かけて段階的に緩和していくことを発表した。これによって,輸出可能な暗号技術の容量が40-bitから56-bitまでに拡大された。単純計算で,65,536倍,解読が難しくなるこの拡大は,電子商取引や電子マネーを推進する企業や団体にとっては朗報であった。 しかし,この輸出規制緩和の発表と同時に,アメリカ政府は,Key Escrowというシステムを提示した。本来Key Escrowシステムとは,国家が直接個人の暗号鍵を管理するシステムを指す。アメリカ政府案では若干緩やかになっており,公証人や銀行などの第三者機関が個人の暗号解読鍵のコピーを保管するという仕組みになっている。とはいえ,ソフトウェア会社は,裁判所の許可があればいつでも政府が個人の暗号解読鍵を利用できるようにシステムを開発しなければならないことになっており,国家が個人の暗号解読鍵を事実上の管理下に置いているという点では,この譲歩案も本質的に変わりがない。 暗号とは,いわば機密を守るための武器である。その武器が,ビジネスなどの通信の安全を守るために利用されていれば,何ら問題はない。ところが,これが犯罪や破壊活動のための通信に利用されてしまうと,その追跡は大変困難なものになる。 同じように,高度な暗号技術をベースとした完全な匿名性を持った電子マネーのシステムの登場は,取引に対する課税や資金洗浄(マネー・ロンダリング)などに対する国家の介入手段を奪うことを意味する。 信頼性と安全性とのバランスをどう維持するかが,これからの課題と言えよう。
このページの作成にあたっては,以下の文献を参考にしました。
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